「つねづね草~特任教諭のひとり言~」は特任教諭田村が、常々思うことを綴ります。
先月は朝顔が色とりどりに元気に花を広げていました。朝早く出勤した時のご褒美のように迎えてくれました。専攻科の出入り口から中学部の作業室への通路の両側に高等部園芸作業の生徒がプランタを並べてくれました。紐をつたってツルが伸びたくさんの花を咲かせました。この後、種を収穫し「あさひでの顔」として販売を予定しているようです。そろそろ朝顔の花の時はお終いのようです。
夏休みも後半戦になってまいりました。早く学校に行きたい、早く学校が始まればいいのにと思う気持ちは保護者の方々が強いかもしれません。あと少し、下旬には小学部の登校日、中高は軽井沢合宿、専攻科も1,3年生の余暇活動、2年生の大利根体験合宿が始まります。もうしばらくお休みを楽しんでください。
さて今回は「卒業生の職場巡回」のお話です。
夏休みを中心に、元担任を中心に卒業生の職場を訪ねます。卒業後3年間毎年1度は必ず職場での様子を見せてもらっています。その後もご希望があれば訪問させて頂きますが、年々社会人として成長している様子を見せてもらえることは私たちにとっても喜びです。本人の働きぶりを実際に見ることや会社や事業所の担当の方から本人の様子や現状での課題、今後の見通しなどを伺うのですが、課題解決に学校時代の支援の仕方が役立つこともあれば、学生の頃には考えられない逞しさが身についていて驚くこともあります。基本的には、良い面は活かされていますし、苦手な所は教えてもらったり手伝ってもらいながら出来るようになったことに自信を持ち、経験という釉を漆のように何度も何度も塗り仕上げていき、無駄なく美しい動作が身についていくようです。
この3年間での高等部専攻科の卒業生は36人います。今年は12名の教員たちで卒業生を訪問します。私も久しぶりに今夏、二人の卒業生を訪問しました。事前にご家庭の連絡しますと、元気に通勤しているとのことでしたので、再会を楽しみに出かけました。Kさんは4月に生活環境が変わったためか体調を崩したそうですが、頑張りたいという気持ちは強く見られました。はじめは自信がなく消極的な姿でしたが、仕事のやり方を覚え自信が付き、流れ作業にも送れずについていけるようになってきたそうです。段ボール箱に点検した品物を詰め梱包する仕事をしていましたが、滞りなく流れるような動作で無駄のない動きで仕事を進める姿に感動しました。「みんなにも見に来てほしい。」と自信たっぷりな様子でした。何より仲間の中で安定している姿と支援員の方々に愛されている様子が見られ、今後の成長に期待が持てました。
Tさんは新しい環境にも慣れ利用者のみなさんとも自分からアイコンタクトを取り笑顔を見せるなど、とても打ち解けている様子でした。自分のペースで広告の折や丁合の仕事をしていました。自分からできたものを次の方の所に置きに行ったり、材料を取りに行ったり、新たな場所でも自分から仕事を進めている姿が見られました。さおり織の仕事が大好きで3m位の長い織物を見せてもらい、その頑張る姿が想像でき成長を感じました。
二人とも今がゴールではありませんのでこれから乗り越えなくてはならない山もあるのでしょうが、ご家庭の支えと事業所の方々の理解と支援を得てさらに成長していくことと思います。
さらに今回はうれしいサプライズが待っていました。偶然10年程前の卒業生の就職先の看板を見つけ、いるかなーと思いながら入ってみたのですが、最初に会った利用者さんに「Uさんいますか。」と聞くと即答「いませーん!」。そうかと諦め、トイレだけお借りしました。トイレから出たところでばったりUさんに会うという驚き。「Uさん、いた!」と声をかけると、「田村先生、これから配達に行くんだ。」と足は止めずに答えてくれました。「元気!」「頑張ってるよ。」「母さんも元気!」と質問には手短に答えてくれながら配達に向かって行きました。Uさんの最後のひとり言が聞こえました。「まさか、配達に行こうとしている時に、身内に会うなんて・・・」そうか、身内なんだ。10年経っても身内と言ってくれる言葉に、少々うるっときました。
旭出学園を巣立ってがんばっているみなさんへ。
この夏も良く働いたことでしょう。しっかり休みもとって、よく休んでください。私もそうします。働きぶりを自慢したい時や何か困っていることがある時にはいつでも声をかけてください。またお会いできる日を楽しみにしています。遅ればせながら、
残暑お見舞い申し上げます。
朝顔や しぼみて残暑 ここにあり
2017.8.8
小学部脇の畑に植えた苗がぐんぐん育ってきました。さつまいもは小学部A組が植えました。トウモロコシやトマトは専攻科アグリ班が育てています。まきの館玄関前のスペースでも野菜作りが始まりました。茄子、胡瓜、ピーマンやゴーヤもあります。夏休みが近づいていますが、夏野菜の収穫の時期でもあります。誰の口に入るのでしょう。専攻科のアグリ班が育てたいろいろな野菜も正門前の無人販売に並んでいます。ご近所の方々が立ち寄り買っていただいています。6月末の高等部3年生の修学旅行は北海道小樽方面でした。飛行機に乗ったり、函館本線に乗ったり、小樽運河クルーズを楽しんだり、洞爺湖の花火を見たり、温泉に入ったり、ラーメン道場で食事をしたり、「(白い)恋人を買う!」とお土産を探したりしたそうです。7月末には専攻科の研修旅行がありますが、今回は函館が選ばれ、同じく北海道の旅を楽しんでくるようです。電車好きの方が多い専攻科は北海道新幹線を利用します。どんな旅になるのか、土産話が楽しみです。
さて今回は「校内合宿」のお話です。小学部、中学部1年生、高等部1年生は毎年校内での宿泊学習を行っています。小学部は全員が対象で、縦割りで2つのグループに分かれて、1泊2日の活動を体験しますので教員は連泊します。メインは近くの「たつの湯」で銭湯体験をし、レストランで食事して、学校で花火をするなど夜の活動です。職員と2,3人の児童が生活自立寮の各部屋に分かれて泊まります。ワクワクする子もドキドキする子もしくしくする子もいますが、みんなと過ごすことができて何かしら「お泊りできたね。また来年も楽しみだね。」という体験になることをねらっています。
中学部は、男子は作業室、女子は音楽室に泊まります。1年生だけの活動ですのでフレッシュマンキャンプというか、中学部から同期になった仲間と共通体験を通して交流することが主なねらいです。夜の学校は少しドキドキして、クラスの仲間との「私たちだけ秘密」みたいに特別感を持ちながらいつも通りの授業を受けた後、1年生だけがみんなが帰った教室に泊まるという活動を楽しみます。多分熟睡する生徒は少ないと思いますので、翌日は早めに下校しますがこれも特別感があると思います。同じ活動をしたというチームワーク感が芽生えればよいと思います。
高等部も1年生だけの体験ですが、生活自立寮の各部屋に分かれて泊まります。2年生になると6週間のカリキュラム入寮がありますし、1年生でも1週間の体験入寮を勧めていますので自立寮に慣れることもねらいの一つになりますが、やはり高等部からの同級生との共通体験をすることが主な目的です。高等部は、夕食は自分たちで協力して作ります。メニューは1学期に調理実習しているカレーライスとサラダやデザートですが、自分たちで作ったご飯を一緒に食べることも良い思い出になっています。銭湯に行き、帰ってからはリビングでゆっくり過ごします。UNOやジェンガで遊んだり、家から持ってきたCDを聴いたりします。翌朝は寮から高等部にいつも通り登校します。午後の作業は少し疲れが見られるかもしれません。ゆっくり進めることでしょう。授業を終え、家に帰ります。
校内合宿のねらいのもう一つの側面は、小学部は秋に行う高尾合宿、中学部高等部は8月下旬の軽井沢合宿に向けた健康面行動面そして情緒面など家庭から離れた時の様子を観察することです。事前にも配慮事項や服薬、睡眠の様子など家庭調書にご記入いただきますが、一緒にいて初めて分かること、やって見なければわからない一面もありますのでこの機会に得た情報を基に職員体制やグループ活動などの計画を立てています。家庭から離れる経験の積み重ねは、お子さんにとっても保護者のみなさんにとっても親離れ子離れし、精神的自立に向かう大切な道のりになっていきます。
甘くなれ 大きくなあれ 茄子 トマト
2017.7.12
小学部の梅の実も大きく色づき、子どもたちは脚立に乗って実を捥いで梅ジュース作りをしました。曇り空から雨が降る日も続いています。梅雨明けはまだまだ先のようですが、6月は小学部の校内合宿、中学1年生、高等部1年生の校内合宿、専攻科の校内実習など学部毎の活動が充実してくる時期になりました。今年は高等部の3年生の修学旅行も6月末に計画されています。
さて今回は「避難訓練、防災訓練」のお話です。
「高等部まきの館1階、調理室から火が出ました。先生の話を聞いてグランドに避難してください。これは訓練です。」放送が繰り返されました。グランドに避難し、訓練を終えて戻ると調理室がすごい煙でした。するとN君が真剣な顔で言いました。「お茶はどうすんの?」「避難しないの?」「煙にやられる!」これまでにもまきの館調理室から火事になったという設定で避難訓練を行うことが何度もありましたが、お茶の心配をしてくれた生徒は初めてです。発煙筒から出る煙は無害のものなので教員もそれを思いついたことはなく、驚くと同時に「よく気がついたね。」と褒め、廊下にお茶の入ったやかんを5つ避難させました。火事の時に逃げる練習をすることが分かっていて余裕もあり、自分がさっき責任を持って作ったばかりのお茶がどうなってしまうのかを心配したのでしょう。避難訓練が終わり、教室に戻り、避難する時に注意することを確認しました。するとN君、「鳥はどうすんの?」と質問しました。教室で飼っている十姉妹の事も心配になったようです。気付くことも配慮することもどんどん広がっている様子でした。次は鳥かごを持って避難することになるかもしれません。
避難訓練は毎学期毎に計画して実施しています。火事や地震を想定した訓練です。年に一度くらいは非常ベルを間違えて押してしまうハプニングもあったり、それは時と場所を選ばないのでまさに非常時で良い訓練になっています。非常ベルがなったら静かにする、放送を聞く、先生の話を聞いて行動することなど、学部が上がるごとに納得している生徒が多く、避難もみんなと一緒にスムーズに行えています。昼休みに事務所によく遊びに来るIさんは「非常ベル怖かったんだ。でももう大人だから我慢できる。」と昔を振り返っています。そういえば中学部時代、音に敏感だったIさんは避難訓練が苦手でずっとドキドキしていましたし、泣いてしまうこともありました。大人になった今は苦手だけど我慢できるし、「逃げれば大丈夫と分かったから。」と話していました。練習の積み重ねや日頃の意識がいざというときに行動できるかどうかにつながります。練習は何に対しても大事であり、何のために行うかも知ることも大事だと思います。
2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災の日、本校体育館では学校全体保護者会を行っていました。今までにない大揺れに会を中断し、当時担当していた専攻科のクラスに戻ると、生徒のみなさんは放送を聞き、机の下にいました。グランドに避難してからもまた強い地震を感じ、まるでグランドが船のように横揺れしていました。時計もメトロノームのように揺れていました。怖さに泣き出す生徒もいましたがいつも通りグランドに集まり寄り添って解散までの長い時間を過ごすことができました。近くに保護者の皆さんがいてくれたことも幸いしたと思いますが、いつもと違う時にもいつものように過ごせる力は日頃の練習からしか培われないと思います。今回は「まだ遊びの時間なのにグランドに行きたくないよ!」「ベルの音は嫌いだ!」と怒ったり泣いたりしている小学部のみなさんにもいずれ練習の成果が見られる日が来ると思います。
災いは忘れた頃にやってくると言いますが、心も体も防災用品も備えることを怠らないようにしましょう。そしてご家庭との連携も不足の無いようにしていきましょう。
ぷくぷくと 葉陰の青梅 何を待つ
2017.6.13
5月は若葉青葉が輝き気持ちの良い季節、というイメージがあります。学園の木々も緑が濃くなり、若さあふれる様子が見えます。葉っぱをよく見ると虫食いの跡、害虫駆除の季節が始まりました。スズメバチの姿が見えると聞いて校長教頭は敷地を見回り、山茶花の葉にチャドクガの卵がついていないかと見回ります。近年は蚊も大敵です。小さな水たまりを作らないように呼びかけます。緑が多いと良い面もたくさんありますが、安全管理もまた大変です。桜の花が散り始めた頃から、季節の移ろいと共に花弁の掃除、葉っぱが生茂れば毛虫の駆除、紅葉を楽しんだ後は落ち葉の掃除が始まります。いい時も手間がかかる時も繰り返しながら季節も進んでいきます。
さて今回は「目標設定委員会」のお話です。中学部高等部専攻科の縦割りの活動として各クラスから委員が選ばれ毎週金曜日の昼休みに委員会が行われます。活動内容はその名の通り、月の目標を決めることです。毎週の初めには朝礼があり、そこで生活目標が確認されます。今年の4、5月の目標は「早く着替えよう」でした。昨年度の目標を上げると、「廊下は歩こう」「熱い時は帽子をかぶろう」「水を飲もう」「汗を書いたら着替えよう」「寒い時は上着を着よう」「掃除をしよう」などがありました。どれも具体的な行動目標になっていますし、自己評価もしやすいです。各クラスで出された目標の案は委員会で話し合われ多数決で決まります。生徒たちの意見をもとにして目標を作ることで彼らにとって身近で意識できる行動になるのではないかと40年以上前から続いている活動です。
まだ若手の頃、この委員会を担当した時に「目標設定委員会って、言いにくいですし、分かりにくいので、生徒会にした方がいいんじゃないですか。」と職員会議で提案したことがありました。ベテランの先生から「誰にとって分かりにくいですか。生徒は困っていますか。」と聞かれました。「目標設定委員会ノート」を印籠のように持ち自信満々で委員会に参加する委員の面々、クラスで目標達成した生徒の数をまとめ委員会で発表し、丸の数が多いことに喜ぶ姿、目標を決めポスターを作り、朝礼で発表する、どの姿も主体的でした。自分の知っている「生徒会」というイメージに寄せたかったのは私自身が分かろうとしていなかったからだと気付きました。言葉は言葉にしか過ぎませんが、具体的な内容が伴っていればこそ使う価値があります。一見難しそうな言葉もやることがわかっていれば十分伝わりますし、寧ろ伝えたい魅力のある言葉になると思います。
目標設定委員会でもう一つ大事なことは、選挙によって「委員長」「副委員長」「書記」を決めることです。昨年から選挙権が18歳以上になりました。本校では選挙についての具体的な行動は、目標設定委員会の主催する「目標設定委員会役員選挙」で学習します。選挙に立候補した生徒は毎朝、そして昼休みなどに選挙活動をし、朝礼で立会演説をし、どんなことを頑張りたいかを話します。後援者からは応援のメッセージがあります。投票用紙は生徒によって写真付きの物を用意します。投票会場には立会人がいて見守ります。昨年9月には練馬区選挙管理委員会による模擬選挙授業もしていただきました。選挙の意味を知るとても良い機会になりました。役員選挙では、立候補者にとっての学びにつながることもよくあります。立候補3回目で当選したN君は、それまでの落選で日頃の行いがとても大事だと気が付きました。教員からは言われていても、どんなことにつながるかわからなかったのだと思います。友達の意見を聞き譲ることや乱暴な言葉で話すと怖がられることが分かり、自分の行動に気づくようになりました。
三木先生は、「精神薄弱児教育の目標は、彼らを立派な精神薄弱者にすることだ」と繰り返し唱えました。視覚障害児教育と対応させ、「盲児教育の目標は、盲児を立派な盲人に育てることだといっても奇異には感じられないであろう。盲教育によって肉眼は見えるようにはならないが、心眼を開かせ、人間的にすぐれた盲人にすることはできるわけであるし、盲教育はそのためのものである。」「精神薄弱児教育では、立派な精神薄弱者の人間像を追及することが大切な仕事になる。」とし、「精神薄弱者の場合に、障害を克服するということは、『自分はこれこれの事ができる』という自覚ないしは自信を持たすことである。その上で、よい行いをする人になろうという方向付けをしていくことである。勉強ができる人を「頭の強い人」とすれば、人をだましたり汚職をしたりする人は「頭の悪い人」である。」(私の精神薄弱者論 1976 日本文化科学社)と記しています。世の中には、学歴も社会的地位も高い「頭が強くて頭の悪い人」が意外に多くいることを嘆き、精神薄弱者と言われる人は「頭が弱くて頭のいい人」が多いと言います。彼らはまじめで覚えたことはしっかり守りたい人たちだから、良い行いをすることが好きなのだと私も思います。
前出の本の「『道徳』の教育について」には、旭出学園の道徳教育として、目標設定委員会があることを示し、「『道徳』は、「よい行いをしなければならない」ということの指導であるならば、精神薄弱児教育にとって『道徳』は中心的な教育内容となる。『道徳』は倫理学的な内容のものではなく、実践的なものと受け取るべき」とあります。良い行いを教えつつ、そうじゃない時もある「残念!」と声をかけるという矛盾の日々ですが、できることはまず良いことをしてくれた時にはしっかり「ありがとう」を伝え、自分が間違った時には「ごめんなさい」をはっきり示せる姿だと思います。「ごめんなさい」がはっきり言えない世間を騒がす「頭が強くて頭の悪い人」には、子どもたちを見習ってしっかり反省してもらいたいと思います。
目に涼し 虫には御馳走 若葉かな
2017.5.23
今年度の入学式は4月7日でした。満開の桜を背景に各部各クラスの記念写真を撮ることができました。高等部園芸作業が育てた菜の花も体育館までの花道を彩っていました。新入生のみなさんは旭出学園での生活も1か月が過ぎ、緊張も解けてきたところでしょうか。5月の連休で一休み、慣れたところで出てくる課題もありますでしょうから、また一山一山ご一緒に上り下りしてまいりましょう。そう言えば小学部の庭の築山にはヨモギが育ってきています。もう少し育ってから摘み取って草団子づくりをします。それはもう大変な現場になると思いますが、最後は笑顔で終わる活動ですので楽しみにしています。
さて今回は「健康診断」のお話です。先日耳鼻科健診が終わりましたが、これから5月まで内科、歯科、眼科と続きます。校医の先生方とは昨年度中に日程調整をしていただきました。長く診ていただいている先生方ですので緊張しているお子さんにもゆっくり対応してくださり、たっぷり時間をかけて検診していただきます。本当に感謝しています。また、養護の先生が、身体測定、視力検査をしますし、研究所の先生が聴力検査に協力してくれます。研究所の先生は節目の学年で発達検査を実施しています。色々な視点から子どもたちの健康や発達を見ていくことは学校時代にはとても大切です。
毎年やっていることは慣れてきてやり方が分かりやれば終わることも見通せますのでだんだんスムーズに受診できるようになっていきます。ですがその前に、例えば初めての時は何かよく分からない内に終わっていたことが「検診」の意味が分かり不安になり抵抗が強くなる時期もあります。何か嫌だ、体に触られたくない、痛い気がするなど泣いたり暴れたりするようになる子もいます。見通す力が付いた証ですので「何をやるか、どうしてやるか」などを根気よく話し、疑似体験をしてもらい不安をなくすように励ましていきます。教員がお医者さんの真似をして、鼻を触ったり、「あーん」と口を開けたり、「ベー」と舌を出したりする練習をします。病気があれば治療をしてもらう事になりますが、「さあこれでプールに入れるね!」は最高のご褒美になります。内科なら「もしもし」と胸や背中をトントンしたり、歯科は歯ブラシで歯磨きチェックをしたり、眼科は「あかんべー」が前もってできるように練習したりします。抵抗する力には個人差がありますが記憶に残るお子さんたちも、高学年になったり、学部が進むと「あら、あんなに大暴れしていた子が、、、」しっかり受診している姿を見ると驚いたり、あのジタバタが懐かしく思い出されたりします。今回も「あれー、泣かないの?』なんて声をかけられているお兄さん、お姉さんがいました。小さな子が泣いていたりすると余計にしっかりお兄さんお姉さんぶりを見せてくれます。今年泣いていた子もそんなお兄さんお姉さんになっていくんでしょうね。
お医者さんに通えることはとても大事な力です。通いなれたお医者さんがいると安心ですが、これから主治医を探そうという方もいると思います。特に歯医者さんを怖がる子はいます。養護の先生の力を借り近くの校医さんにご協力をいただき、通院の練習をさせていただいたことがあります。放課後、お母さんと養護の先生と一緒に医院に行きドアをタッチして帰ってくる、待合室で座る、診察室に入って先生と握手する、診察台に座って口を開けるなどお子さんに合わせてスモールステップで受診できることを目標に行いました。
健診とは離れますが、近くのあいだ理容店のご厚意で「床屋さんに行って髪を切る」練習をさせてもらった子供たちもいます。少しづつ少しづつ床屋さんに入れるようになり、椅子に座れるようになり、髪を切ってもらうことができるようになりました。髪を切ることにも抵抗があるお子さんは結構多いです。お母さんが「汗だくでお風呂場で切ってます。」なんてお話もお聞きします。お母さんとは行けなくても先生も一緒なら仕方がないと思ってくれたら、あとは焦らず目標達成を目指す道のりが見えてきます。お医者さんも床屋さんもですが、お店にお世話にならずに生活していくことはできませんので、こういう力がついていくことが地域で生きる力になると思います。
草摘んで 香り美味しい 春の庭
2017.4.28
4月になり平成29年度が始まりました。子どもたちはまだ春休み中です。各校舎、各教室から廊下に出された机や椅子、棚や教材、荷物などでごった返しています。7日の入学式までには、生徒に合わせて新たな教室に運ばれます。新年度に向けた準備が少しずつ進み始めました。外に目をやると、桜もだいぶ花開き、グランドのバックネットにはチューリップが植えられたままに並んで咲いています。丈が短いのでまるで頭でっかちの幼子が並んで歩いているようです。
さて今回は「クラブ活動」のお話です。本校では、中学部高等部専攻科の縦割りで授業として行うクラブと、高等部専攻科の有志を対象に課外で行う「課外クラブ」があります。どちらも自分のやりたい活動に取り組み、仲間と一緒に活動を楽しむことがねらいです。
昨年度の中高専の課内クラブには、「運動」「散歩」「和太鼓」「読書」「手芸」「音楽」「美術」がありました。生徒の希望があり、5人以上の仲間が集まれば新しいクラブもできます。27年度は「畑クラブ」もありましたが、昨年は人数が集まりませんでした。
クラブの提案は生徒からも教員からもありますので、全校朝礼でクラブ紹介をして、その後各クラスで一人一人が希望するクラブを決めます。希望するクラブの生徒数をまとめ、担当職員の配置を検討します。好きなクラブが毎年決まっている生徒もいますし、今年は別のクラブにする生徒もいます。友達や先生で選ぶ生徒もいますが、半分以上は同じクラブの常連さんになる場合が多いようです。
「散歩クラブ」は別名「ジュースクラブ」とも言われ、近くの公園を目指して散歩しながら季節を感じ、体を動かすことが目標ですが、公園近くの自動販売機で好きな飲み物を買い、公園でいただく活動を楽しみにしています。お金の扱いや順番に飲み物を選ぶなどできることも積み上がります。「読書クラブ」は、学校近くの図書館に行き、好きな本を選んで読んだり、借りたりします。図書館カードを作り、利用することができるようになることで、自宅近くの図書館でも本やCDを借りて余暇を過ごすことにつながる生徒もいます。もともと好きな活動が趣味や余暇の過ごし方に役立つとよいという考えで進めてきています。
高専の課外活動には昨年度「鉄道クラブ」が新たに加わりました。電車を見に行き、写真を撮ったり、雨の日は教室いっぱいにプラレールを組み立て模型の列車を走らせたりして楽しみました。鉄道好きは多く、提案されるとたくさんの生徒が希望しました。「硬式テニス」「ダンス」「音楽」「美術」も定着し、希望する生徒が多くいます。有志による活動ですのでやりたい気持ちがあり、技術や知識なくても意欲が高い生徒が対象になります。青春時代の1ページを仲間と一緒に好きな活動に取り組む、できれば向上心や達成感を得られる場にしたいと始めた活動です。この観点からイメージすると、「運動」ではなく「テニス」、「ダンス」ではなく例えば「フラダンス」、「音楽」ではなく「合唱」、「美術」ではなく「油絵」などお楽しみだけではなく職員などで教えられるものをしっかり伝える場という考え方もあると思います。この辺りは教職員みんなで議論をして「課外クラブ」の在り方を来年度までに検討したいと思います。生徒から出た「やりたい」を支えたい気持ちも当然あります。教員だけでは力不足で実現できないこともありますので皆さんのお力もお借りできればと思っています。今後ともご支援の程よろしくお願い致します。
生真面目に 並んだ並んだ チューリップ
2017.4.3
追伸
今年度も特任教諭として働かせて頂きます。つたない感想雑記も続けさせていただきたいと思います。ご意見ご感想などお寄せいただけましたらうれしいです。
3月に入り益々日々の過ぎ行くスピードが加速してきました。すでに卒業式修了式までのカウントダウンが始まりました。外を眺めれば春光まばゆい季節になり、グラウンドの隅っこにある中学部の畑では麦が勢いよく伸びてきました。踏まれた後に強くたくましく育つ様に、この一年間の子どもたちの成長の姿が重なります。
さて今回は「総合学習」のお話です。各学部で時間割の中に「総合」がありますが、具体的な内容は行事の事前学習事後学習、社会見学や理科的な実験などの教科的な学習、生活技術や知識を学ぶ家庭科的な学習、余暇活動や趣味につなげる学習等各部多彩です。そしてその全部が、生活を豊かにするための学習だと思います。先日の「舞台発表」も「音楽」や「美術」「体育」などの授業と共に「総合」の授業枠も使って、「聞く話す読む書く」を含め、一人一人の役割を決め仲間と協力して一つの物を作り上げる楽しさを味わう「総合学習」です。
本学園は、生活教育、生産教育、生涯教育を教育方針に掲げていますので、生活に生かせる知識や技術を学習し習得することが教育目標になり、目標を達成するための活動を計画しています。「総合学習」の中には「生活」の時間があります。買い物学習や調理実習、洗濯や清掃も含めて主に衣食住に関わる学習を行います。小学部ではおやつの買い物やおやつ作りをしたり、中学部でもお弁当の買い物や昼食作りを体験しますが、高等部と専攻科では毎週「生活」の学習をします。今年度高等部では9グループに分かれて、一人一人の課題、目標達成に取り組みました。買い物、調理の他にも外食でのマナーや手順の理解などを目標にして取り組んでいます。例えば買い物学習では、自分の食べたいものを選べる、予算内で買うことができる、栄養のバランスを考えて買うことができる、支払いではお金を渡してお釣りをもらうことができる、丁度のお金を支払うことができる、654円の時には700円が出せる、レジでは並んで待つことができるなどの様々な力が要求されるのです。お金の課題の中では、金種のマッチングができるか、数字とお金の対応ができるか、金額の大小が分かるか、小遣い帳に記帳できるか、残金を管理し、計画的に使うことができるか等々細かいステップアップを目指すことが大切になります。いずれ社会人になり給料をもらいその中でやりくりする、自立を目指すためにはいくつもの課題を乗り越えていかなければなりません。できることを積み上げていくことは生涯続く学習です。千円札を持って毎月好きな本を選んで買う、お釣りは貯金箱に入れ、レシートは小遣い帳に貼る、貯金がたまったら好きなCDを買う等目標を持ち、自分ができる力を出して生活することがその方の生活を充実させかつ生活が豊かになることだと思うのです。
毎回の買い物学習でのお釣りを貯めて最後の生活の時間にお寿司を食べに行こうという目標を立てました。もちろん回るお寿司屋さんです。予算は1300円です。一皿100円だと10皿はいけそうです。最近はデザートや一皿150円というものもありますので行く前に約束をしました。「お金は1300円です。全部合わせて10品です。アイスクリームもジュースも1,2と数えます。」図や身振り手振りや文字で伝え、何とかわかったようです。前々回はこのルールは納得できず,ご家庭で行くときの様子そのまま他の生徒の分も注文し、好きなものを好きなだけ食べるという楽しみ方でした。前回、10皿までのルールに快く取り組み友達が注文するのを見守り、達成できそうでした。自分からお皿を見て一緒に数え、10でストップできたという達成感を得ているようでした。結局150円の物をたくさん注文したので予算はオーバーになってしまいました。そこで今回は予算内ということを繰り返し伝え150円の物は3皿までというルールにしようと思います。好きなものを満足に食べられないなんて外食の楽しみがないのではと思われるかもしれませんが、高校生くらいになれば課題や目標をクリアした時、やった~感がありそれを認められ、さらにできることが増えることの方が喜びになると思います。
この方法で達成できなければやり方を考えご家庭にも協力頂きながら次の策を練りたいと思います。楽しみです。
弱くても 強くなるぞと 麦緑
2017.3.11
追伸
本人と約束したことをご家庭に伝え、「食べたいものを相談してください。」とお願いしました。インターネットで一緒に調べて頂けたようで、翌日得意そうに選んだ10品のメモを見せてくれました。お店でも自分で記入したメモを見ながら一品ずつ確かめながら注文することができました。好きなものを予算内で食べる目標が達成できました。
ご家庭と連携して目標達成に向けて支援ができたことをうれしく思いました。
立春を過ぎましたが北風は冷たく、くっきりと影のできる日向でもまだまだ冬を感じます。小雪や霙が舞い落ちる日もありました。それでも三木安正記念館前の水仙が咲き並び、小学部の紅梅は満開になりました。桜の冬芽も目立ってきているこの頃です。月日は目くるめく過ぎていることを実感します。
さて今回は「学習発表会」のお話です。現在各学部では、今月末の発表会に向けて練習にも力が入ってきたところです。特に今年は舞台発表ですので、先日体育館には舞台が設置されました。何を言っているのかイメージがつかない方もいらしゃると思いますが、本校の舞台は組み立て式です。毎年、組み立てたり、解体したりしてその場に合わせた環境作りをしています。本音を言えば、舞台が作り付けの下に椅子が収納できる、床も温かみもあって明るく広い体育館が理想です。すみません、話が逸れました。
今年の演目は、小学部は2年がかりで練習してきた「さるとかに」、中学部は私にはとても懐かしい「ひょっこりひょうたん島 (旭出版)」、高等部は「じごくのそうべえ」、専攻科は「ライオンキング」です。小学部は、「表現」の時間に和太鼓とオペレッタを練習しています。発表の舞台を目指して取り組んでいます。「スイミー」「動物の謝肉祭」など「さるとかに」もそうですが、親しみのある登場人物(動物)が多く個性豊かに歌や動きで表現する内容です。台詞も大事ですが、それよりもその子の好きな身体表現が舞台で発表できることを目指しています。2年間かけていろんな役を一通り経験できるように、自分で好きな役を選べるように、こんな動きをしてみたいという自主性も出せるようにと工夫しています。悪役のさるは人気があり、堂々と柿を投げたり悪さをできるのもうれしいようですし、最後には「ごめんなさい」と謝ることも納得している様子です。
中学部は、「千と千尋の神隠し」「キャッツ」などの場面や登場人物を取り上げながら、ストーリーはオリジナルで展開しています。映像や歌で馴染めそうなものを基本に展開しますが、劇中では日常生活につながるやり取りや台詞を用意しています。「こんにちは」「ありがとう」「おねがいします」「さようなら」「仲良くしよう」「一緒だと楽しいね」挨拶を始めとする日常場面でも身に付けて欲しい言葉を言えるように台詞として鏤めてあります。思春期の夢を描くような歌や未来に向かう気持ちの良い歌詞を歌い上げたいという時期ですので選曲も彼らに合ったものを取り入れています。どんなドンガバチョなのか、ダンディなのか、トラひげなのか、サンデー先生なのか、、、ワクワクします。
高等部は、「青い鳥」「うらしまたろう」など多くの人に知られたお話を題材にしています。分かりやすい物語の中で、自分の役をしっかり理解し、台詞や動作も覚え、全員で一つの劇の完成に向けて取り組みます。実はオーディションで配役を決めますのでやりたい役に付けない生徒がたくさん出ます。がっかりしたり落ち込んだりする姿もありますが、そこを切り替えて自分の役に取り組めるようになった時また成長が見られます。配役については、隔年で行いますので1年生で希望の役ができなかった経験のある3年生や高等部では最後の舞台になる2年生の希望を優先させたいという配慮はします。またたくさんの人がやりたいという役に選ばれたことで責任感を持つように働きかけもします。今回の「じごくのそうべえ」は人形遣いの黒子とそれぞれの声優の役があります。閻魔大王や、やまんばも人気がありました。「絶対鬼がいい」という生徒もいて一人一人納得のいく役を選ぶことができました。
専攻科は「ライオンキング」「ウエストサイドストーリー」など、最後は仲間と共に愛ある世界を作っていこうというメッセージのあるストーリーを選んでいます。最後の学生生活で仲間と一緒に一つの舞台を作り上げることの楽しさやそれぞれの役割を果たすことの重要性を感じて欲しいという意図があると思います。お互いの役割にも関心を持ち分かり合い、舞台裏での役割も含めて協力する、できる力を出し合うという場面を多く設けています。今年の練習はなかなか見る機会がありませんのでとても楽しみにしています。
ライオンキング初演の年は専攻科にいましたのでその頃の思い出話です。主役を得た生徒は普段それほど集団性や社会性が高いようには見られませんでしたが、主役になったことで率先して練習に取り組み、周りにも声をかけるようになりました。劇団四季の舞台を観劇した後は、学部全体に意欲が出ました。皆からの意見を聞きたいという問いかけに、今まで劇の練習に気乗りがしていないように見えた生徒が「あのー、化粧とかちゃんとした方がいいんじゃないですか。」といつもの低い声で前向きな意見を言った時にはびっくりしました。職員のやる気スイッチが入った瞬間でもありました。より良いものを目指そうとする一体感が子どもたちにも教員にも相互作用で生まれやすい活動であることも改めて学びました。本当は劇が好きで舞台が似合っている生徒が多いとつくづく思います。
劇遊びから始まり、劇を通して役割を楽しむこと、台詞を言いやり取りをするロールプレイ的な学習効果もあると思いますが、共同活動の醍醐味、一人一人が役割を持って一つの目標に取り組むことの楽しさを実感できる学習活動だと思います。商業演劇も好きですのでいくつか観てきましたが、旭出学園の学習発表会以上に感激できる劇はまだ観たことがありません。言い過ぎでしょうか。ご期待ください。
庭覗く 皆と咲きたい 瓶水仙
2017.2.11.
冬休みに入り、各校舎の不具合な所や壊れた場所の改修工事が始まりました。築50年近い校舎もありますので、毎回長期休み毎に必要な手入れが始まります。体も心もそうですが寿命を延ばすにはメンテナンスが欠かせないのです。夕暮れの生徒のいない体育館から明かりがもれ、業者の方が工具を動かす音が響きます。新年には少しだけきれいになった校舎で生徒たちをお迎えできればと思います。
さて今回は「同窓会旭出あおば会」のお話です。本校卒業生の就労継続支援と余暇活動の支援を行っています。年3回あおば会ニュースを発刊して、学校行事などのお知らせや卒業生の近況、職場紹介などもお伝えしています。毎年、青葉のつどいの後に総会を開催し、会長、副会長、会計など役員や余暇活動計画や会計報告の選出と承認をしてもらいます。会長は卒業生の保護者にお願いしています。副会長は卒業生と学校教職員から選出しています。年会費は1000円で主に通信費になります。職場巡回や面談はご希望により調整します。月1回第3土曜日に開催する余暇活動への参加者は、その都度参加費をいただきます。参加費はボランティアを含む参加者の昼食費に充てています。毎回の参加者は平均しますと、卒業生が40名、保護者ボランティア、教員ボランティアを含めてボランティアの方が20名ほどで運営しています。
余暇活動の内容については、10時から10時半までに集合して、午前中はクラブ活動をします。運動クラブや音楽クラブや美術クラブがあります。毎回好きなクラブを選んで参加してもらっています。学生時代運動が好きだった方はやはり学校時代に練習したキックベースボールやポートボールを楽しんでいます。音楽クラブでは持ち寄ったCDを聴きあったり、踊ったり、学校時代の好きな歌を歌うことが楽しそうです。美術でも静かに過ごすことや絵を描いたり工作をしたりすることが好きな方たちがマイペースで創作活動をしています。昼食を食べ、協力して後片付けをし、1時半頃解散します。
調理室では、保護者ボランティアを中心に昼食が作られます。カレーとサラダが主なメニューですが、12月17日のクリスマス会ではハヤシライスにサラダとから揚げ、ロールケーキなどみんなが楽しみにしているメニューが揃っていました。保護者をはじめとするボランティアのみなさんの支えで成り立っている活動です。この日の参加総数は80名を超えましたので昼食場所は2つに分かれて行いました。毎年卒業生が社会に巣立ち、同窓会の会員数も増えて300名近くになります。余暇活動への参加者も当初の2倍ほどに増えました。
本校は建学の精神として「保護者の協力」と「生涯支援」を掲げています。社会人となってからの長い人生においても、節目節目でますます理解と支援が必要になります。月1回の活動ですが、卒業生から直接声を聴き、様子を把握することで保護者や地域の支援事業所と協力して必要な配慮を提案できることもあります。卒業生が幸せに生活していることから力をもらい、困っていることがあればその課題克服のための支援方法を学び、現在の生徒支援に生かすことができます。卒業生から学べることも教職員としては専門性を高めることにつながります。卒業生の生涯支援は、旭出学園の使命でもあります。そして大きな課題も見えてきました。
ボランティアの導入と定着は数年前から話し合われ、大学や高校に声をかけたりしてきました。多くの方々に協力を頂いてきましたが、なかなか定着には至っていません。保護者のボランティアは緩やかな世代交代が見られますが、保護者の方々がお互い無理なく楽しみながら参加して下さっているようです。これが維持できればよいと思います。できる時に手を貸して下さることで下支えの層が厚くなっていくとよいと思います。教職員のボランティアの確保はなかなか厳しいです。理想はありますが、現実には通常の職務がありますのでプラスアルファーの任務になります。参加者も増え毎回10名ほどの教職員にクラブ活動の支援などをお願いしています。クラブの数も増やさなければ、危険だったり、楽しめない状況も見られることもあります。今後はボランティアの方の得意な活動を展開していただきたいと思っています。現在、中高専の縦割りで行われているクラブ活動には、和太鼓、散歩、手作り、ダンス、読書があります。高専の課外活動では、テニス、鉄道も加わります。かつてはフラワーアレンジメントや園芸、料理、英語もありました。好きなことを一緒にやってくださる方を積極的に募集していくことも今後必要だと思っています。
「ボランティアって、支援しているようで実はこちらが支えられているんですよね。」どなたかが話されていた言葉が身に染みる年頃になりました。手話では確か、共に歩くとあらわすのだと思います。まさに共生社会のはじめの一歩です。お申し出をお待ちしています。
今年も旭出学園にご理解とご支援をいただきましてありがとうございました。くる年がみなさまにとって良い年となりますことを願います。
灯りさす 黒く大きく 冬桜
2016.12.27
ロータリーの満天星はオレンジ色に、銀杏の葉は黄色に色づきました。出勤時、まきの館の前の楓の下をくぐる時に見上げると赤や黄に紅葉した葉が輝いています。葉っぱ越しに見える青空がうれしい一日の始まりです。昨年は2階の教室から桜と楓が真っ赤に燃えるような景色が見られたそうです。今年は桜が先に散り始め地面に落ち葉の花を咲かせています。毎年同じようで丁度いい時のタイミングが少し違うようです。旭出のスウィートスポットもいくつかありますが、4号館グラウンド側の教室から見る桜は迫力がありました。今は資材置き場になっているので残念な気がします。生徒がいる場所にしてほしいと個人的には思いますが、専攻科の作業を多方面で模索し拡大している現時点では場所取りも難しい様子です。
さて今回は「無人販売」のお話です。高等部の「園芸作業」は20年以上前から学校の北門に手作りの販売所を設け、生徒がビニールハウスで育てた花の苗や香草、校内の落ち葉で作った腐葉土、小さな畑で育てたピーマンなどを近隣の方に販売してきています。株分けして育てたリュウノヒゲは近くの住宅建築現場の方がたくさん買いに来ることもあります。駐車スペースなどの緑に使うそうです。作業学習を通じて近隣の方々とのお付き合いができ「きれいな花が咲きましたよ。」などの声を頂いています。売れ上げの計算や出荷数の確認など記録と管理の学習にもつながっています。
旭出学園は大泉学園駅から商店街を抜け、住宅地を通り、点在する農地を目にしながら駅から歩いて20分ほどで到着する場所にあります。本校の理事でもある全日本特別支援教育研究連盟会長の松矢勝宏先生から、この恵まれた環境の中で地域と結びつく社会活動「生産活動」を学ぶ機会を作り上げていくことが大事と畑を借りて農作物を作って販売することを勧めていただきました。先生のお知り合いの方から畑を借りられるように話を進めていただき、専攻科が農作業に取り組むことになりました。2年目の今年は野菜を中心に保護者や職員を対象に販売できるようにしてきました。当たり前のことと言えば当たり前ですが、農業は基本の産業です。やることもたくさんありますし、しなければいけないと気付くことも多く、その中で生徒ができること、できるようにする工夫などに満ちている作業です。何より畑でいい顔を見せる生徒が多いと聞きます。そこから生まれる野菜はたぶん美味しいはずです。校内にはしいたけを育てる小屋も作りました。収穫のタイミングや何をどのくらい栽培するか、などなどまだまだ課題は多いですが、ここにきて「無農薬野菜」を無人販売できるようになりました。近隣の方からの評判も上々のようで、大根、里芋、小松菜、しいたけなど無人販売所に並べた作物は完売しているそうです。自然相手の作業ですのでいい時ばかりではなく今後もいろいろな問題に直面することと思いますが、是非経験値を積み、努力を重ね、生徒と共に5年先、10年先を見据えて取り組んでいってほしいと思います。作物を育てながらいろいろな夢も育つように思います。作物を加工した商品開発や作物を調理して出すお店の構想は早くから生まれました。無人販売から店を出して直接販売する学びの場も広がればうれしいと思います。将来、校舎建て替えや改修などの時には、道路側にお店のスペースを作り、中学部や高等部や福祉園の工芸品などの製品も並べて、桜の花や紅葉を見ながらくつろげる「あさひでカフェ」が開店できたらと思います。夢ではありますが、夢は言葉として発した時から動き始めるものです。「それいいね。」と誰かに届いて、「協力したいわ。」と繋がって一人の夢でなくたくさんの人の夢になっていけば実現に向かう道ができるのではないかと期待しています。
きらきらと 赤 黄 緑の 朝紅葉
2016.12.5
学園正門のロータリー、三木先生のレリーフの脇にホトトギスの花が咲いています。奥ゆかしいというか、自己主張を見せない花ですがなぜか心惹かれる花です。寒さに向かうこの季節にはその色や形、一見地味で控えめな佇まいながら何かにしっかりと向き合っている姿がしっくりきます。♪ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン 人それぞれ好みがありますが、私には咲いている時に後ろ姿で語ってくれているような、好きな花の一つです。
さて今回は高等部の「修学旅行」のお話です。10月下旬、7名の高等部3年生と教員3名、旅行会社の添乗員さん計11名で、佐渡島、新潟3泊4日の旅に行って来ました。実はこの3年間毎年高等部3年生の修学旅行に同行させていただきました。名古屋の旅、東北の旅そして今回と、そのどれもが行先や乗り物、見学するもの、体験するもの、御馳走などその学年の生徒たちがやりたいもの、好きなものでしたので、特色もあり違っていましたが、事前学習も重ねて見通しを持ち「これこれ!」としおりを確認したり話合ったり、みんな満足そうな表情を見せてくれて良い旅にお供させてもらいました。
今回のメインは乗り物でいえば、新幹線と船、そしてロープウェイとローカル線。新潟港からジェットフォイルで佐渡両津港へ。紅葉の八海山へはロープウェイで登り、十日町からほくほく線に乗り沢山のトンネルを越えて湯沢へ。中二日間はバス移動でしたが乗り物好きな生徒も多く満喫しました。行きは何ともなさそうでしたが帰りのロープウィでは「怖い」と乗るのを一瞬拒み、初体験を乗り越えた生徒もいました。
体験では、棚田の稲刈りとコンバインの運転を予定していました。前夜の大雨でせっかく刈り取りを待ってもらっていた稲刈りは田んぼに水がたまってできませんでしたが、コンバインの運転は一人ずつ田んぼで試乗体験しました。朝食はぬか釜(籾殻で炊く)で新米を炊き、一人一合のご飯をぺろりと平らげ、昼食は噂の天空米を一人一合いただき、みなそれなりに太りました。おいしかったです。「佐渡おけさ」を地元のお姉さんたちに教わりました。「手先を伸ばす、反対の手は敬礼、足と手は同じ方を出す。」など手取り足取り教えてもらい、生徒たちは教わり上手を発揮していました。踊りが大好きで、バスの中でも繰り返し自主練していました。さらに盛り上がったのは「鼓童」の佐渡太鼓体験でした。伸ちゃん先生による一時間以上の佐渡太鼓体験を楽しみました。
♪たたこう館にやってきた やまいもどんどん ぶたばなぶー 佐渡 佐渡 佐渡 佐渡 佐渡島 の曲に合わせてたたくことができました。素敵なお土産になりました。
トキの森の見学、尖閣湾の絶景も天気に恵まれ紺碧の海をゆっくり眺めてきました。松代の農舞台、落書きのできる教室では、思い思いに絵を描いたり名前を書いたり線を引いたり長居してきました。廃校を美術館にした田島征三さんの絵本と木の実の美術館見学。この日から寒さがまし、見学後温かい紅茶をごちそうになりみんなお行儀よく頂いて心から「ありがとう」を伝えていました。今はまだ学校が似合っていました。その土地ならではの風景を味わうことも旅の醍醐味です。「遠くへ来たなぁ」という感覚、海や山、段々の田んぼ、日頃はみられない景色を眺めたり、広い温泉に浸かったり、そんな経験もこれからの楽しみにつながります。男子は全員で朝風呂を体験し、運に恵まれ「雲海」を眺めることができました。「雲!」と喜ぶ声が聞こえました。
ごちそうは何と言ってもお米でしたが、カニがカニの姿で出てきたり、岩のりラーメン、海鮮丼、へぎそばなど土地の名物をおいしくいただきました。お土産は見学先で目聡く好きなものを選びどんどん買うタイプの方とじっくり考えすぎて決まらない方、全く興味がない方等々人それぞれでした。しおりに記入してもらったお土産リクエストを見ながら一緒に選ぶことができました。お父さんに日本酒、お母さんに御饅頭、兄弟にキーホルダー、家族に笹団子やお米、お煎餅、自分の欲しいものなどが記入してありました。一番は土産話かもしれませんが、保護者の方から「いい表情で帰ってきました。」「お土産を得意気に渡していました。」などのコメントを頂きました。
この度の旅行は、3年生の主担任で彼らを3年間見守ってきた美術を専門とする職員が計画を進めてきました。やはり生徒の興味関心のポイントをしっかり押さえた体験や見学先を旅行会社の担当とよくよく打ち合わせていたと思います。名所の金山はやめて太鼓の体験や体験型の美術館などご自分の経験も踏まえて盛り込んでいました。本当にぴったりはまった計画だったと思います。どこに行っても何をやっても楽しめる生徒たちだと思いますが、彼らのやりたいことを聞き、または想像し、計画を立てていかなければより良い修学旅行はできません。身内を褒めるようで申し訳ないのですが、担任の力は大きいと実感しました。少人数だからこそ小回りの利く計画ができるという利点も生かし来年の計画も立てられることと思います。
副産物と言いましょうか、経験値のことで行くとお金の使い方の学習の課題が見えました。使いすぎてしまう方は失敗がチャンスです。お金が無限ではないこと、何かを買うと何かを我慢しなくてはならないことを学ぶ良い機会になります。何かを諦める、あるいはお金を貯めて欲しいものを買う経験を今後ご家庭とも相談したいと思いました。買い物に興味のない方にも友達の様子が刺激となり家族がお土産を喜んでくれたことなどを次の経験につなげていけるとよいと思いました。これも積み上げですね。
耳澄ます 何を語るか ホトトギス
2016.11.5
10月になっても天気の方はなかなか安定しませんでしたが、実りの季節になりました。まきの館の前に新しく作られた田んぼの稲穂もしっかり実をつけ、頭を垂れています。こちらはもち米ではなくうるち米です。19日に1,2年生が稲刈りをしました。この後、しばらく干して、脱穀、籾摺り、精米の学習を経て、今年中には旭出米を食べることができるにではないかと思います。
さて今回は高等部の「進路学習」のお話です。将来社会人として自立し、心豊かな生活ができる人になるために必要なアクティブラーニングを中心に、学年別の内容で取り組んでいます。1年生は、作業所見学や校内合宿、公共交通機関の利用など、2年生は先輩の就労先見学や職場実習、カリキュラム入寮、余暇活動の計画、3年生は実習体験報告、修学旅行などを行っています。「進路」というと職場実習など就労に関することが重要視されますが、本校では働くだけではない楽しみを持つことや生活を自分で組み立てる力が「心豊かな生活」には必要と考え、余暇活動の充実や入寮経験を貴重な体験として計画し実施しています。3年生での修学旅行は、毎年自分たちで行きたい場所を選びやりたいことを話し合い盛り込んで、「友達や先生と一緒に楽しむ旅行」を計画しています。2年生も今から楽しみにしているようです。
先日高等部の部会の議題の一つは「交通機関の利用についての計画」でした。西武電車と西武バスの乗車を体験して、車内でのマナーやどんなことで困るか、困った時にどうするかなどを現場で確認したり練習したりする学習活動の引率計画についての検討をしました。実際に公共の交通機関を利用して通学してきている生徒もいますし、これまでの電車やバスを利用した校外学習での生徒の様子などから、また保護者から心配な課題をお聞きするなどして特に注意することを絞っていきました。マナー面では荷物の持ち方や座席の座り方など、駅のホームで家や学校に連絡する時の迷惑にならない場所の確認などは実際に示すことができわかりやすくなる項目でした。
問題になったのは、「車内では携帯電話は使用しない。」という常識をどのように伝えれば納得できるかということでした。生徒の実態としては携帯電話のゲームに夢中になってしまい乗り過ごしてしまうこともあるようです。車内放送でも「優先席付近では電源を切って通話は控えてください。」というのがルールです。車内を見回せばおそらく携帯電話を見ていない人の方が少ないのが現実です。「みんなやっているのに自分だけどうしていけないのか。」いろいろな意見が出されましたが、なかなかぴったりの答えは難しい問題です。「乗り過ごしてしまったり、荷物を落として人に迷惑をかけたり、災害や事故の大切なお知らせが聞こえなくなってしまうので、車内では携帯電話は使いません。これは旭出学園のルールです。」と伝えることにしようということでまとまりました。常識と思っていたことも日に日に様変わりしてしまい、非常識になってしまっているようです。便利な機器が次々に登場し当たり前に利用しているつもりが、すっかり依存してしまっている現状に驚かされます。使用するにはやはり約束やルールを決めて制限もするることが誰にとってもよいように思いますが、いかがでしょうか。
頭垂れ 疑問難問 稲穂かな
2016.10.19
夏休み前に刈り取った草はこの1ヶ月でさらに勢いを増して育ち、9月の始業式を前に職員による草刈り作業を行いました。ロータリーの木々にもグラウンドの芝生にも校内周りの雑草にもそれぞれの生命力を感じる夏の終わりです。
さて、中学部と高等部の夏合宿が無事終わりました。今年は台風9号の影響で出発を一日延期しました。8月22日(月)の初日は11年ぶりの関東上陸となってしまいました。リオのオリンピックに身も心も費やして、夜更かしして応援観戦しているうちに、日本には3つの台風が接近していて、まさかの合宿当日に上陸の予報があり、一気に現実に引き戻される事態になりました。前の週の登校日では生徒も教員も日程を確認したり、役割の段取りを復習したり、キャンプファイヤーでの各クラスの出し物を練習したりすっかりやる気満々で迎えた週末でしたが、日曜日の判断で一日延期し、高等部は3泊から2泊に、中学部は1泊になってしまいましたが計画を短縮して行うことになりました。ここ10年近くは練馬区の施設をお借りして夏休みの終盤に、新学期を迎える気持ちと生活のリズムを取り戻すこともねらって軽井沢で実施してきました。場所や泊数もその時々の生徒や活動内容の検討をしながら変遷してきた歴史があります。
昭和25年に少人数でスタートした旭出学園の園舎が手狭となり昭和29年に増築することになり、工事期間であった8月下旬から9月下旬の1か月間保田のYMCAの寮を借りて合宿を行うことになりました。三木先生はこの時期、生活指導を行うには寄宿寮で集団生活による指導を行う必要があるとの考えを持ち始めていました。この合宿は、保護者にとっても教員にとっても子どもの生活自立の可能性を見出す機会になりました。本校の「合宿による教育」はここから始まりました。大筋は現在の生活自立寮での体験に受け継がれています。
昭和35年に中学部、高等部が認可され、生徒数や学部も増え、校外合宿についても学部毎の目標や内容が精選されるようになり、宿泊先やその周辺の環境などで活動計画を検討し実施してきました。学校の合宿は小学部だけの合宿と、中学部高等部専攻科合同の合宿が長く続きました。場所も変わりましたが、30数年ほど前からは長野県にあった東京都立聖山学園の施設を閉鎖されるまで使用させてもらいました。4泊5日の合宿でした。自然豊かな場所で設備も良く山登りや飯盒炊爨、自然散策など夏合宿の定番を楽しめる場所でした。場所としては遠く中三日の活動でした。閉鎖後中高は那須高原の施設や志賀高原のホテルを宿泊先にしたり、専攻科は単独で夏合宿を実施したり、研修旅行に発展したりしてきました。中高は同じ場所で行ってきましたが、中学部の泊数を減らしたり、活動自体は別にしたり、生徒にとって良いと思われる内容をその年その年で検討し改善してきました。
昨年は浅間山の噴火もあり、中学部は校内合宿にしました。高等部の軽井沢合宿は過去6年間雨のため山登りやハイキングや実施されていません。自然に親しむという目標はなかなか計画通りにいかない現実がありますが、身辺自立に向けて、集団性を身に着ける共通体験など合宿の主な目標は達成されていると思います。毎年の積み重ねで合宿生活にも見通しを持ち、活動に積極的に参加する生徒の成長ぶりについては教員間では必ず盛り上がる話題になります。「1年生の時は○○だったね。」「先輩になったね。」などなど、それは教員の共通体験にもつながります。今年、久しぶりに高等部の合宿に参加しました。今年もキャンプファイヤーは雨でできませんでしたが、各クラスの出し物は大いに盛り上がりました。外のキャンプファイヤーでは3年生の点火や火の粉が夜空に巻き上がる様子、花火などがメインになりますが、全体的には暗いので出し物ははっきり見えないことも多いです。室内ではこの出し物に全力投球する生徒の顔がはっきり見え、それぞれ工夫を凝らした演出や、より楽しもうと競い合う様子さえあります。これも毎年の積み上げでありここ何年かの伝統になっているのだと思いました。伝統ってこうして受け継がれるものなんでしょうね。
夏草や 兵(つわもの)となり 陣を張る
2016.8.31
2号館小学部校舎脇の向日葵は2mを悠々と越えて大輪の花を咲かせています。長引いた梅雨が開けると青い空に白い雲がくっきりと浮かび、陽射しが急に強くなりました。校舎の陰になり西日が当たらずにすんで向日葵もほっとしているような面持ちです。
さて、先日の衝撃的な事件が頭から離れず何とも言えぬ重苦しさを持たれている方が多いのではないかと思います。不安の正体を簡単にことばにするのは難しいのですが、恐怖も怒りも混在した何か悲しい、見ないでいたい現実を突き付けられたからかもしれません。膨らんでいく不安な気持ちを「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長のことばが諌めてくれました。今回、犯人が「障害者はいなくなればいい」と言っていたことを聞いて不安に思うときは「身近な人に話しましょう。そしていつもと同じように過ごしましょう。」と、どうすればよいかを具体的に示されたうえで「障害のある人もない人も私たちは一人ひとりが大切な存在です。障害があるからといって誰かに傷つけられたりすることがあってはなりません。もし誰かが『障害者はいなくなればいい』なんて言っても、私たち家族は全力でみなさんのことを守ります。ですから堂々と生きてください。」力強いことばです。障害があってもなくても、強かろうが弱かろうが人一人の命の重みに差別があってはなりません。誰かは必ず誰かを支えているのです。生きがいになっている存在です。「堂々と生きてください。」私もこの言葉に勇気をもらいました。
前日の7月25日、本校では職員研修として「不審者対応」を石神井警察署の指導を受けたばかりでした。15年前の池田小学校事件の犯人は「子どもを殺して、自分も死刑にされたい。」とその動機を話したそうです。強盗とは違って学校など施設に押し入る不審者の目的は、自分よりも弱い立場の子を傷つけること、そして自分が死ぬために犯罪を起こすことがほとんどだと聞いたばかりでした。翌朝事件を知り、「本当に殺しに来るのだ」と恐怖に震えました。その後の連日の報道で、犯人の経歴や動機、言動、被害にあわれた方々の保護者や支援者の憤り、悲しみ、恐れさまざまな視点からの情報が流れてきます。私が不安を感じてしまうのは、重度障害者は生きている意味がないと思う人の存在です。そう思う人こそ「障害」とは比べられないほどの重度の問題を抱えて生きているのだと思いますし、犯人はかなり特殊な人物だと思いますが、そのように単純に障害者が生きている価値がない存在とし殺人を犯す憎しみを若者が持ったことに恐怖心が膨らんでしまうのです。ですが、障害者の身近にいる者だからこそこの恐怖心に飲み込まれてはいけないのです。いつものように彼らが得意とする規則正しい生活に寄り添い、良いことは褒め、悪いことはただし、堂々と共に生きることが大切です。その暮らしぶりを見れば、それぞれの地域の多くの方々は理解と支援に力を貸してくれます。彼らはそういう存在であることを傍にいる私たちがこれまで以上に発信していくことが必要です。障害を知ってもらうことから理解の輪が広がります。
池田小の事件は、地域に開かれた学校の門を閉ざし、監視カメラを付けさせ、立ち入り禁止の看板を揚げて閉ざされた学校にしました。今回の事件が、せっかく地域で共に生きてきた開かれた施設の塀を高くし、鉄線を張り巡らせ、社会から隔離して守る場所にならないように、教育や福祉に光を当てた広い議論をすることで、亡くなられた方々の犠牲に報いる方向に世の中が動いていくことを望みます。
「生きなさい」 向日葵のよう 堂々と
2016.8.1
まきの館前には生徒が観察学習のために植えた朝顔が上へ上へと弦を伸ばし赤や青の花を20数個ほど咲かせています。もう夏だなぁと、気づけばもう7月です。
1学期も終盤を迎えています。教職員にとっては評価の時期に入ってきました。学部やクラス、作業学習などのグループ編成毎に生徒の様子を話し合い、目標にしていたことがどのくらい達成しているのかなど一人一人について話し合います。ご家庭には「通信簿」「連絡簿」としてお伝えするためのものでもありますが、一人の児童生徒を取り巻く教員たちが児童生徒の現状や課題を把握し、目標達成のためにどうすればよいかを検討するためのものです。ねらいとしたことに適切な支援ができているか、やり方はその子の実態に合っているか、など一人の目ではなく複数の目で確認し改善点を探ります。言わば教員自身の評価会であり、「先生の通信簿」づくりなのだと思います。高等部の例でいうと、「身辺生活の自立」「集団・社会生活」「作業学習」「言語・数量・教科」「健康・運動」「進路・余暇」という各領域について、保護者との面談等で短期目標(学期の目標)として設定し取り組んできたことに対する生徒の様子をお伝えします。
小学部では身辺面の課題が大きく、スモールステップで細かく達成できるようにという支援を重視しています。ご家庭と同じやり方で、あるいはご家庭の様子をお聞きした上で優先順位を共有し、学校でもできることを部分的に練習するなどの配慮が大切になります。中学部では集団社会性の広がりに課題が置かれるようになります。「帰りのHRに間に合うように着替える」「自分の役割を忘れずに行う」「友達や先生に気持ちを伝えることができる」といった集団行動やコミュニケーションの課題に対して意識的に機会を作り練習する頻度を上げていきます。一人一人の力を伸ばすことと集団に合わせることは矛盾するようにも思われますが、友達や先生と一緒に活動することが楽しいという経験、友達に認められる体験を積めば積むほど、集団行動に達成感を得て目標として取り組むことに積極的になり、社会性が発達します。いいこともいいことでもないと思われることも友達の力は大きいです。友達を見ながらやってみたいと意欲が出ることが成長につながります。いいことは褒め、失敗は合理的に適切な機会を作ることで改善に導けることが多いです。家庭と連携しWinwinの構図を作れると即効果が見られます。
高等部では作業学習の発展として外部の現場実習や職場見学があり、体験後の課題の確認などからは、生活のリズムや清潔感など身辺生活の自立が問い直され、言葉遣いや態度など仲間と協調できるかなどの集団性社会性が問題視されます。人を嫌な気持にさせないことや人を信頼し受け入れられることができる力が大切になります。「挨拶がきちんとできる」「時間に間に合うように移動する」「話を聞いてから始める」「失敗した時に報告できる」などが再び目標となります。知識があること、技術を身につけることは豊かな生活につながりますので学校時代に積み上げることが大事ですが、その最終目標は人々の中で笑顔でいられることに使われるべき知識であり技の獲得だと思います。何のために知識や技術を獲得するのかは常に見失わずにいたいところです。
本校の専攻科はこのところ本校高等部からは80%程の進学率です。高等部専攻科6年間での進路指導を原則にしていますが、高等部からは義務教育ではありませんので選ばれる学校、学部としてありたいわけですからまず生徒本人が進学したい、専攻科でこれをしたい、ああなりたいと思い描いて進んでほしいと思っています。本人の希望を支援する進路指導が本校のやり方です。本人の意欲があればこそ教育効果も上がりますので専攻科体験もしてもらい、本人の意思表示をする機会もその都度作ります。身辺自立面でも集団・社会性でもそれぞれ課題はある方々ですが、「みんなと一緒に学びたい。」という意欲を示すことで支援の内容は広げられるのが学校なのだと思います。通信簿からそれてしまいましたが、本人も、保護者も教職員も私たち自身が目指していることができているかどうかを振り返る学期末です。
なかなかうまくいかずに苦笑いが増えるこの頃ですが、作り笑顔で乗り切ろうと大人の知恵を絞っています。口角を上げていると笑いたいと脳が錯覚するのか、些細なことにもだんだん声を出して笑えることが多くなるような気がします。気のせいでしょうか。暑さ厳しく心折れそうな時、是非お試しください。
月替わり 暦半分 ながる汗
2016.7.4
蔦の絡まるバックネットの下に、小さく刈り込まれた紫陽花が薄いピンクに色づき始めました。6月は、初日「五月晴れ」で始まりました。五月晴れとは旧暦の梅雨の晴れ間を表しているそうです。雨不足も心配ですが、どんよりした空模様が続く中の晴れ間はうれしいものです。今年の梅雨は降って晴れて、バランスよく恵みの雨と快適な日光をもたらしてくれますようにと願います。
今回は中学部のカレンダー作業のお話です。本校は中学部から作業学習が始まります。ねらいは、将来の社会参加に向けて、働くことへの意欲と態度の形成です。中学生の目標としては、仕事と遊びの区別をつける、できることを増やし自信を持つ、友達と協力するなどです。カレンダー作業を始めて30年近くになると思います。私が中学部に異動した頃は木製の玩具作りを行っていました。フレーベル館に納品したり、幼稚園に納品し交流したりしました。白(板)研き、枠づくり、染め、ボンドづけなどの工程を流れ作業で行いました。技術力が問われ、出来上がりの規格基準があり、中学生が初めて取り組む仕事としては難しくなってきました。カレンダー作業は元校長の星先生が導入しましたが、版づくり、印刷、丁合の工程を最初から最後まで経験できること、インクづけと擦りの役割分担がはっきりしていて協力して印刷するという作業ができること、できたものを家庭で使えること、毎年作るものであることなど中学生の作業としては物作りから始めることがわかりやすく、一人一人の力に応じた作品が出来上がり、どれもが唯一無二の素晴らしいものになることなどとても魅力的な作業です。当初は、カレンダーの数字も木版で作り、数字を月ごとに並べ替え刷っていましたが、数字は3年生が手書きで版を作り発注し、版画づくりと印刷に重きを置くようになりました。その時々で携わった教員たちが工夫を重ね、生徒の個性を生かした図案づくり、色を重ねることで版の良さを引き出す多色刷り、消しゴム版のポイント印刷仕様などなど年々進化しているように感じます。各教室に掲げられ、毎月どの教室は誰の版かを確かめる生徒もいます。おばあちゃんにあげて喜ばれた、褒められた、また来年も楽しみにしているなどの言葉をたくさんの方々からもらうことで生徒一人一人の意欲が向上し、技術も上がり、作業態度が安定します。勤労感謝祭で販売しますが、毎年好評です。「毎年同じ作業というのはいかがなものか、いろいろ経験させてほしい。」という保護者の声も聞かれますが、繰り返すことの大切さを、そこから育つ全体を見通す力、主体性、積極性、自尊感情、先輩としての自信などなど3年生を見ていると成長は多岐にわたっています。一つのことを続けるからこそ多方面に根を伸ばしていくのだと思います。
古くて伝統的な作業が本校の特徴でもありますが、一人一人の個性に合わせられるから続いているのです。生徒の意欲と生徒の特性を見極める教員の工夫がなければやらされ感しか残りません。生徒だけではなく、向き合う生徒への思いがなければ教員にとってもやらせている感だけが残り、作業学習の醍醐味はなくなります。補助具の工夫や工程を細分化するなどの工夫で生徒自ら仕事に取組みできることが増えたとき、お互いに喜び合えるのが作業学習です。私自身高等部のときには苦手な手芸作業を担当したことがありましたが、刺繍はうまく教えることができませんでしたが、ミシンで直線縫いを練習し、かわいい柄の布で小袋を作り、ラベンダーやカモミールのポプリを詰めて、におい袋を作りました。無人販売所に置くと結構買っていただくことができました。自分のできることから生徒の力を引き出すことができるとやりがいを感じ製品にも愛着を持ちより良いものにしたいという感情を共有できます。作業が楽しい時間になります。専攻科の清掃作業のときに生徒ができる平編みで始めたアクリルたわし作りは、製品として販売するにはほど遠かった製品開発でしたが、引き継いでくれた教員の工夫が加わることでより生徒の力が発揮できる完成度の高い製品になっていきます。うれしいことです。今年の専攻科はペーパーワークとアグリクリーンという二つの作業チームで始まっています。農作業も好きな生徒が多そうですし、工夫次第でなかなか幅のある楽しい作業学習になりそうな予感がします。応援したいと思います。
五月晴れ 若き紫陽花 雨を待つ
2016.6.6
5月の旭出学園のグランドはシロツメ草が群生しています。ナズナ、タンポポ、さまざまな草がありますが、一応芝生のグランドではあります。若葉青葉も目に鮮やかな季節になりました。朝の運動などで草の上でストレッチをするのはこの季節が一番気持ち良い気候です。
連休明けの月曜日、全校朝礼でお誕生日のお祝いをして頂きました。その週に誕生日を迎えた友達や職員をみんなで祝います。朝礼台に立ち、誕生日と年齢を発表します。中学部高等部専攻科70余名から♪ハッピーバースデイ ツゥ ユー を歌ってもらい、それが終わると「おめでとう」とたくさんの生徒が握手をしに来てくれます。60歳を過ぎてもたくさんの笑顔に祝ってもらえる、なんて幸せなことだろうと思います。
朝礼でお誕生日をお祝いしたいと提案してくれたのは、今年32歳になる先輩でした。年齢や誕生日をすぐに覚えることができ、しかも一度覚えると忘れません。毎年一つずつ加算することも忘れず正確なので年齢をごまかすことはできません。そんな彼はいつも「今日は誰々君の誕生日です。」と教えてくれていました。その頃は友達にはそれほど関心があるわけではなく、「お祝いしたい」という気持ちもあまりなかったと思いますが、「誕生日」にこだわりがあったようでした。朝礼で彼に今週の誕生日の友達を発表してもらい、みんなでお祝いすることにすると、誕生日を発表できることが気に入り、友達への関心も広がり、朝礼に参加する事が楽しみの一つになったようでした。得意なことをみんなに認めて貰えたことで居場所ができ安定したのでしょう。それから15年以上も朝礼でのお誕生会は引き継がれています。今でも誕生日を覚えてくれる生徒もいますし、年をごまかせない状況に変わりはありません。初めはみんなの前に立ったり、握手を求められることが苦手な生徒も毎週繰り返されるうちに祝ってもらいたいという気持ちの変化を見せてくれます。
♪ハッピーバースデイ ツゥ ユー を歌うとき、歌ってもらうとき、この言葉がふと浮かんできます。
ひとりは みんなのために みんなは ひとりのために
年はごまかせませんが、気持ちは若くできます。だって、「先生、かわいいよ!」なんて言ってくれるんですから、もう最高です。
歌声に 若葉のごとく われ煌めく
2016.5.9
3月に校長職を退任いたしました。今年度より特任教諭となり、暫く働かせていただけるようです。若手の教員の方々の足を引っ張らないように精一杯頑張らせて頂きます。まずは健康管理に努めたいと思います。今年の「特任」の内容は、高等部の副担任としてのお役目です。久し振りの現場でドキドキですが、青春時代の真っただ中を過ごす高校生との毎日は笑いの多い日々になるだろうと楽しみにしています。
さて、7日は雨の入学式でした。前日と翌日の晴天がうらやましくも思いましたが、本校の桜の木々もまだまだたくさん花を残してくれて、新入学生、進学生、進級生を迎えてくれました。楽しく実り多い一年間になるような予感がします。
本校の桜のお話です。約40年前に関連施設である富士旭出学園から移植されてきました。幹も太くなり、花も枝葉も茂る大木に成長しました。今年は、開花してから暫く花冷えの日が続きましたので4月に入ってからもゆっくりと満開になり、花見を楽しめる時間がいつもよりも長く続いています。30数年前に小学部に勤務した頃の園庭の桜は今ほど自己主張をせずもっと幹も細く頼り気のない所もありました。お隣の福祉園の桜たちもまだ若く、大空に両手を広げて伸ばす姿だったと思います。旭出さくら通りとでも言いたくなるような花のトンネルができていました。綺麗でした。
夏に向かって若葉が茂り木陰をつくり、秋になると紅葉し銀杏と共に目を楽しませてくれます。ただ、ご近所にとっては花の時期を過ぎると、毛虫がついたり、落ち葉が積もったり苦情も多く聞くようになります。電線に支障が無いように伸びた枝を落とさねばならず、隔年で切り落とされてきた桜は直角のように変形してゆき、道路と反対側に手を伸ばす姿になりました。小学部の桜は今では大きな幹が太い枝を支え、そこにハンモックやブランコを下げて子どもたちを乗せてくれます。ゆらゆらと木陰のハンモックに身を任せるのはやさしく包まれているようで気持ちが良いのでしょう。子どもたちが大好きな遊具になっています。
春の夕暮れ、久しぶりにこの桜の大木の花影に入りました。ゆっくりと見上げていると若い頃の自分を思い出したり、年老いた自分をも感じたりしました。その時々で目の前のことをただただやり過ごすことしかできずにきました。自省の念などというものに駆られていると、若ければ若いなりの良さがあり、老いれば老いたなりのできることがあるはず、まだまだ頑張れるでしょ、そう励まされているような気がしました。この大木の広く大きな心を感じました。子ども達だけではなく木陰に集うすべてのものに手を差し伸べやさしく包んでくれるからでしょう、居心地のよい場所です。何か心が落ち着かない時は木の下に立ってみてください。静かに包んでくれることでしょう。
風吹いて 大木静か 花絨毯
2016.4.9